まとめ

AQUOSの技術が宇宙へ、シャープが衛星通信サービス参入

シャープが2027年を目途に法人向け衛星通信サービスへ参入する。スマートフォンで培った5G技術とミリ波アンテナの知見を衛星分野に水平展開し、ルクセンブルクの衛星通信大手SESと組んで船舶・建機・モビリティ向けにワンストップのソリューションを提供する計画だ。ポッドキャスト「石川温のスマホNo.1メディア」では、シャープ通信事業本部・次世代通信事業統括部の今村公彦統括部長と楠田晃嗣ビジネス推進部長に詳細を聞いた。

なぜシャープが衛星通信に参入するのか

テレビ・スマートフォン・家電が事業の中核を担うシャープにとって、衛星通信は一見すると異質な領域に映る。しかし今村氏は「新規事業へチャレンジし、領域を広げていかなければならないというトップダウンの方針があった」と背景を説明する。

きっかけは2015〜16年頃にさかのぼる。スマートフォンの国際標準化の議論の中で、「セルラーの技術を衛星通信に適用していこう」という動きが生まれ、その延長上に今回の事業がある。さらに2023年頃にスターリンクが大きな注目を集め、「まず可能性を調べてみよう」という機運が社内で高まった。今村氏は「セルラーの技術と衛星の技術をそんなに分け隔てなく同じものだと見ていた。新しいチャレンジというより業務を広げているイメージだ」と語り、参入への違和感はなかったと明かす。

5G NTNが切り拓く「水平分業」の衛星通信市場

今回の事業の技術的な核心が「5G NTN(Non-Terrestrial Network)」だ。今村氏は「5Gというのはスマホで使っている5Gと全く同じ意味。この5Gの技術をそのまま衛星に使ってしまう。できるだけスマートフォンの技術を使ってしまうという発想で進めている」と説明する。

2027年には5G NTNの規格統一が予定されており、シャープはこのタイミングに照準を合わせる。重要なのは、このトレンドが衛星通信市場の構造を根本から変えうる点だ。現状はロケット打ち上げから衛星製造・運用・端末製造まで一社で担う「垂直統合」が主流だが、5G NTNの普及により「水平分業」の世界へと移行すると今村氏は見る。「今衛星通信をやっている会社とスマートフォンをやっている会社は全く別のように見えると思うが、おそらく10年もすれば同じような会社がやる世界になってくる」という。

シャープの強みはここに直結する。5G技術への精通に加え、28〜30GHz帯のミリ波アンテナ技術がある。衛星通信で多用されるKa帯(約26〜40GHz)やKu帯(約12〜18GHz)は、5Gのミリ波と周波数帯が近い。MWCでのアンテナ展示で注目を集めた際も、「5Gに長けた会社であること」「高周波のフェーズドアレイアンテナ技術を持つ会社であること」がシャープ声掛けの理由だったと今村氏は振り返る。

SESとの提携と「マルチオービット」戦略

シャープが組む相手は、ルクセンブルクに本社を置く衛星通信大手のSESだ。今村氏によると「グローバルではトップ2と言われている会社」であり、2024年に米インテルサットを買収して規模をさらに拡大している。日本では携帯電話基地局のバックホール回線やJALなど航空会社向けにもサービスを提供しており、すでに国内市場との接点は深い。

衛星の軌道は静止衛星(約3万6000km)・中軌道衛星(MEO)・低軌道衛星(LEO)の3種類があり、これらを組み合わせる「マルチオービット」がトレンドになっている。シャープはすべての軌道に対応した端末を展開する方針で、周波数帯もKa帯・Ku帯の双方をカバーする計画だ。SESは静止衛星から中軌道衛星へとサービスの軸足を移していく方針を持っており、シャープはそのパートナーとして日本市場、ひいてはアジア圏でのサービス展開を担う。

ビジネスモデルの観点では、SESがヨーロッパで主にビジネスを展開している衛星が地球の反対側の日本上空を通過する時間帯は「あまり使われていない」時間となる。シャープはそのリソースを活用してサービスを提供する形であり、グローバルで衛星を運用するSESとの協業が経済的合理性を生む構造になっている。

船舶・建機・モビリティへ、ワンストップサービスで差別化

2027年に最初にターゲットとするのは、衛星通信を「渇望している」顧客だ。楠田氏は「船舶、つまり船の上は携帯電話がつながらない。一方でつながらないのは困るという方がたくさんいらっしゃる」と具体例を挙げる。また建機については「郊外でされるケースが多く、自動化や遠隔操作に通信が必須」だと指摘する。

通信速度は現時点では数十Mbps〜100Mbpsを想定しており、「将来的にはギガが見えるぐらいの話もある。スマホを使うのとあまり変わらない感覚で使えるビットレートだ」と今村氏は見通す。

競合のスターリンクとの差別化については、楠田氏が「端末と回線と保守設置、さらにはソリューションまでワンパッケージで全てを一括してお客様のご要望に合わせてご提供するサービスを目指している」と語る。スマートフォン事業ではメーカーと通信キャリアが役割を分担するが、衛星通信サービスではシャープが両方を担うビジネスモデルだ。

この体制を支えるのがシャープのアフターサービス網だ。シャープは全国のコンビニエンスストアにコピー機を展開しており、「壊れたら1〜2時間以内にサービスマンが駆けつける」体制を全国で維持している。楠田氏は「この体制をうまく活用して衛星通信に対してもきめ細やかでスピーディーなアフターサポートができる」と自信を見せた。なお国内コンビニの3分の2にシャープのコピー機が納入されているという事実は、対談の中でも改めて紹介された。

2030年代は車・ドローンへ、eSIMで「スマホの世界観」を宇宙へ

中長期的なビジョンとして今村氏が語るのが「車の上に乗せる」という世界観だ。モビリティへの搭載を前提とすると、国ごとに専用端末を入れ替えるのは現実的でない。そこで鍵を握るのがeSIM(組み込み型SIM)だ。「eSIMで書き換えてしまって事業者を選ぶというのは非常に相性のいい世界」と今村氏は話す。日本向けにはAのeSIMプロファイルを書き込み、米国向けにはBのプロファイルを書き込む——まさにスマートフォンの世界観を衛星通信に持ち込む発想だ。

今後はSES以外の衛星通信事業者ともパートナーシップを結び、端末・回線サービスともにグローバル展開を目指す。コピー機事業がグローバルでの収入が国内を上回るほど成長したように、衛星通信端末も世界市場を視野に入れる。

2026年度中にはPoC(概念実証)の展開も始まる予定だ。今村氏は「一緒にしたいという方はぜひご連絡をいただければ」と呼びかけ、楠田氏は「スマートフォンで培ってきた技術を生かし、5G化による国際標準化をリードしながら小型軽量の端末をあらゆるモビリティに寄せていって、衛星通信というのも当たり前のものにしていきたい」と締めくくった。

※本記事はポッドキャスト『石川温のスマホNo.1メディア』の内容を再構成したものです。

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