スマホとAIにまつわるあれこれをお届け

石川 温のスマホ業界ブログ

Ankerが独自開発「Neo Lithium-ion Battery」、釘刺しでも発火しない安全性を追求

モバイルバッテリー市場で世界シェアトップを誇るAnker Japanが、独自開発のバッテリーセル「Neo Lithium-ion Battery」を発表した。釘を刺しても発火しない構造を実現し、安全性を大幅に高めたという。アンカー・ジャパン株式会社執行役員・コーポレート本部長の井田真人氏が、モバイルバッテリーの発火リスクの本質から新技術の詳細、正しい使い方・廃棄方法まで幅広く語った。

「安すぎる製品は疑え」——発火リスクの構造的背景

スマートフォンの普及とともにモバイルバッテリーの需要は高まる一方で、発火事故のニュースも絶えない。井田氏はその根本原因をこう説明する。

「リチウムイオン電池自体に可燃性の液体が入っているのが大前提です。その液体に何かが引火してしまうと発火する可能性があります。携帯電話であってもモバイルバッテリーであっても同様です」

さらに市場に出回る製品の価格差にも問題があると指摘する。5000mAhのモバイルバッテリーでも500円を下回る製品が存在する一方、Ankerの最低価格帯は3000〜4000円程度だという。

「守るための保護機能や検査を備えようとするとある程度のコストがかかります。安い製品がなぜ作れるのか、というところにたどり着くと、必要な品質が担保されていない場合も十分あります。安すぎるものに手を出さないのが鉄則です」

Ankerが品質にこだわる部分は、電池・基板・筐体の三つ。「一つでも手を抜くと製品として完成形に至らないという考え方です」と井田氏は語る。

車内放置・強い衝撃はNG——知っておきたい正しい使い方

ユーザーの使い方についても注意点は多い。特に夏場の車内への置き忘れは深刻なリスクだと井田氏は強調する。

「車内は高い時で70〜80度に達します。そういった環境に置かれると劣化が非常に早まります。また強い衝撃を与えてしまった場合は、できれば使わない方がいいですね」

使用年数についても明確な目安がある。「リチウムイオン電池は消耗品と考えていただくのが正しいです。有効残量が80%になるのが300〜500サイクル、大体1年半から2年と言われています。モバイルバッテリーも携帯も含めて、1年半から2年での交換を推奨しています」

Ankerではオンライン購入から2年が経過すると、ユーザーにメールで通知する取り組みを実施している。量販店とも同様の連携を進めているという。

保管場所については「直射日光を避け、火の当たらない場所であれば通常問題ありません」とした上で、長期間使わずに放置することにも警鐘を鳴らす。「0%まで放電してしまうとその後も自然放電で減り続け、使えなくなってしまいます。最低でも半年に1回は充電することをお勧めします」

PSEマークの「落とし穴」——自主検査の実態

消費者がモバイルバッテリーを選ぶ際の目安として知られるPSEマーク。現在、モバイルバッテリーには丸型PSEがなければ販売できないルールになっている。しかし井田氏はその限界も率直に明かす。

「丸型PSEは自主検査と言われるもので、実際には検査をしなくても付けられてしまうことがあります。検査自体もかなりコストがかかるものなので、それも込みで安くできるというのはどういうことか、皆さんに認識してもらった方がいいと思います」

PSEマークの確認は最低限の基準として必要だが、それだけで品質を保証するものではないという認識を持つことが重要だ。

釘を刺しても燃えない——「Neo Lithium-ion Battery」の技術

こうした安全性への課題意識を背景に、Ankerが2026年5月に発表したのが独自バッテリーセル「Neo Lithium-ion Battery」だ。

「安全性と利便性のどちらも追求した製品です。不純物を徹底的に排除したセル素材を使用しています。電池の中に異物が入ってしまうと非常に良くない影響が出るため、それを極限まで抑えました」

最大の特徴は、従来のリチウムイオン電池では発火の原因となっていた「釘刺し試験」をクリアしたことだ。井田氏が仕組みを解説する。

「従来のリチウムイオン電池では、釘を刺すと内部短絡が起きます。プラスとマイナスが直接くっつくことでショートが発生し、可燃性の液体に引火して発火に至ります。新しいNeo Lithium-ion Batteryでは、釘を刺してもプラスとマイナスが直接くっつくことを避ける構造になっています。正極・負極の材料を変えたり、不純物を徹底的に排除して成分を安定させたりと、複数の観点からリチウムイオン電池をさらに進化させました」

物理的な強度も追求しており、平らな鉄棒で強く押す試験や大型トラックによる踏圧試験でも安全性を確認済みだという。筐体素材も燃えにくく強度の高いものを採用している。製造においては、クリーンルーム環境での生産が不純物排除の鍵を握る。

全固体電池ではなくリチウムイオンを選んだ理由と今後の展開

半固体・全固体電池が注目を集める中、なぜあえてリチウムイオン電池の進化を選んだのか。井田氏はその判断理由を二点挙げる。

「まず、リン酸鉄など他の素材に変えるとサイズが大きくなってしまいます。消費者のニーズはやはり小さく持ち歩きやすい製品です。もう一つは、私たちはリチウムイオン電池に関して多くの知識と経験を持っています。半固体・全固体はまだ知見も経験も少なく、トラブルにつながりかねないと判断しました。リサイクルや廃棄の仕組みという観点でも、リチウムイオン電池の方が世の中の体制が整っています」

Neo Lithium-ion Batteryを搭載した製品「Anker PowerBank MagGo Plus」は2026年夏に一般発売予定だ。価格は従来品より若干高くなるが、「当たり前にしていくことで、今後は従来の価格帯に近づけていく努力をしたい」と井田氏は述べる。将来的にはAnkerの主要製品全般にこの電池を展開していく方針だ。

航空機へのモバイルバッテリー持ち込み規制が厳しくなっている現状についても、「この電池を軸に航空業界ともコミュニケーションを深めていきたい。安全性が業界全体で担保されれば、規制緩和の方向につながる可能性もある」と前向きな姿勢を示した。

※本記事はポッドキャスト『石川温のスマホNo.1メディア』の内容を再構成したものです。